日本においては給与所得者の多くが年末調整で課税関係が終了し、確定申告義務はありません。しかし、そういった中でも確定申告をしなければならない方がいます。所得税法に従って11パターンに分け検討していきます。
【1】給与の年間収入金額が2,000万円を超える方
給与の年間収入金額が2,000万円を超える方は給与所得だけであっても確定申告が必要です。ここでいう給与の収入金額とは、いわゆる額面金額であり、課税対象となる給与所得控除額を控除した後の給与所得控除後の給与等の金額とは異なります。その年の主たる給与の収入金額が2,000万円を超える方については、年末調整の対象とならないことから必然的に確定申告が必要になるのです。
参考まで、2,000万円の給与収入の方の給与所得控除後の給与等の金額は、1,780万円です。
一般的な給与の方の所得税については年末調整手続きにより源泉徴収義務者である会社等にお任せしているわけですが、給与所得であっても高額な方については税務署としても個別に把握したいといった意味合いでしょう。
ちなみに給与等の支払金額が500万円を超える方については、会社から税務署に対して源泉徴収票の内容については提出されています。
【2】給与を1か所から受けていて、かつ、その給与の全部が源泉徴収の対象となる場合において、一定の所得金額(給与所得、退職所得を除く)の合計額が20万円を超える方
副業をしていても生活の糧になるほどの稼ぎがなかった場合には雑所得となるわけですが、これが20万円以下であった場合には確定申告義務はないですよ、逆に20万円を超えてしまったらサラリーマンでも確定申告してくださいねという規定です。
副業をされる方が増えている昨今ではこの規定を検討しなければならない方が増えているといえるかもしれません。
また注意すべき点は、ここでいう一般的な物の売り買いなどの雑所得というのは、あくまで所得ですから、収入から経費を控除した後の金額で判定するということですね。
また、給与を1か所から受けていて公的年金に係る収入金額が90万円(65歳以上の方(昭和30年1月1日以前に生まれた方)は140万円)を超える場合も確定申告義務あり、逆に公的年金等に係る収入金額が90万円又は140万円以下であれば確定申告義務なしという方もいらっしゃるかもしれません。
【3】給与を2か所以上から受けていて、かつ、その給与の全部が源泉徴収の対象となる場合において、年末調整をされなかった給与の収入金額と、一定の所得金額(給与所得、退職所得を除く。)との合計額が20万円を超える方
これは、メインの給与支払先で年末調整を行っていて、サブの給料が年末調整の対象とならなかった場合において、その金額等が20万円以下であれば確定申告をしなくてよいということですね。
ここにおいては、20万円の判定が、給与所得控除後の給与等の金額ではなく、給与の収入金額と一定の所得金額との合計額によって判定することに注意が必要です。
【4】給与所得の収入金額から、所得控除の合計額(雑損控除、医療費控除、寄附金控除及び基礎控除を除く。)を差し引いた金額が150万円以下で、かつ各種の所得金額(給与所得、退職所得を除く。)の合計額が20万円超の方
所得税計算のプロセスにおいては、給与所得金額から所得控除額を控除した残額に税率を乗じますので、ここにおける給与所得の収入金額から、所得控除額を控除するという考え方がやや不自然に感じられるわけです。
ですが、法律がそうなっていますのでわかりやすいように計算式で比較してみます。
(例)給与収入180万円 – 扶養控除38万円 – 国民健康保険10万円 = 137万円
この場合には、雑所得が20万円あっても確定申告は不要となります。
これを所得税の計算に当てはめると
給与収入180万円 → 給与所得控除後の給与等の金額108万円 給与所得金額108万円 – 扶養控除38万円 – 国民健康保険10万円 – 基礎控除38万円 =22万円 22万円×所得税率5%=11,000円 これに20万円をプラスすると (22万円+20万円)×5%=21,000円 となり、申告しないことによるメリットは、1万円となります。 つまりそれほど大きな金額にならないため申告の手間を考慮し少額不追求ということなのでしょう。
【5】同族会社の役員やその親族などで、その同族会社から給与のほかに、貸付金の利子や資産の賃貸料などを受け取っている方
同族会社の役員やその親族などの場合、その同族会社が、役員所有の不動産を借り受けることがよく行われます。こういった場合、金額の調整等が容易であることから、少額であっても所得計算に含めるものとされたと思われます。
なお、法人が個人に対して不動産の使用料等の支払をした場合には、その年中における支払金額の合計額が15万円超であれば、その法人から税務署に対して支払調書が提出されています。
【6】災害減免法により所得税等の源泉徴収税額の徴収猶予や還付を受けた方
災害を受けた給与所得者、公的年金受給者の方の災害による住宅や家財の損害金額が、その住宅又は家財の価額の2分の1以上で、かつ、その年分の合計所得金額の見積額が1,000万円以下である場合には、その見積額に応じて、源泉所得税及び復興特別所得税の全部又は一部について徴収猶予や還付を受けることができます。この場合の住宅又は家財とは、自己又はその者と生計を一にする配偶者その他の親族でその年の総所得金額等が38万円(令和2年以後は48万円)以下である者が所有する常時起居する住宅又は日常生活に通常必要な家具、什器、衣服、書籍その他の家庭用動産をいいますが、別荘や書画、骨とう、娯楽品等で生活に必要な程度を超えるものは含まれません。
また、災害による住宅や家財の損害金額がその住宅又は家財の価額の2分の1未満、又は、その年の合計所得金額の合計額が1,000万円を超える場合で、災害による損害金額について雑損控除の適用が受けられると認められるときには、徴収猶予限度額に達するまでの金額について、源泉所得税及び復興特別所得税の徴収猶予を受けることができます。 このような規定により給与所得者がこの源泉所得税及び復興特別所得税の徴収猶予又は還付を受けた場合には年末調整されませんので、確定申告により所得税及び復興特別所得税を精算することになります。
【7】在日の外国公館に勤務する方や家事使用人の方などで、給与の支払を受ける際に所得税等を源泉徴収されないこととなっている方
大使館は一般的な会社とは異なり、源泉徴収義務がないためそこで働く日本人職員は確定申告の必要があります。
また、常時2人以下の家事使用人だけを使用している雇主から支払いを受ける家事使用人の給料は支払者に源泉徴収義務がないため、確定申告をする必要があります。
【8】国外で支払いを受ける給与等
国内源泉所得が国外において支払われる場合とは、利子・配当等について、契約に基づく支払代行機関が国外に置かれ、当該代行機関を通じて利子・配当等を支払う場合や国内で勤務する非居住者に対して、その給与等を国外の本店等が支払う場合などが考えられます。
これらの場合には、源泉徴収の対象となるものの支払事務を取り扱う場所が国外にあり、国内には源泉所得税の納税地は存在しません。ただし、当該支払をする者が国内に事務所等を有する場合は、国内で支払うものとみなして源泉徴収を行うこととなりますので確定申告が必要となります。
出張した際に支払を行うような場合は、その支払事務(支払額の計算、支出の決定、支払資金の用意、金員の交付等の一連の手続)は国内で取り扱われたものと認められることから、国内払となり確定申告が必要となります。
【9】公的年金等に係る雑所得のみの方
公的年金等に係る雑所得のみで、公的年金等に係る雑所得の金額から所得控除を差し引くと残額がある方は、確定申告書の提出が必要です。
ただし、公的年金等の収入金額が400万円以下で、かつ、その公的年金等が源泉徴収の対象となる場合において、公的年金等に係る雑所得以外の各種の所得金額が20万円以下である場合には、所得税等の確定申告は必要ありません 。
公的年金等の支給にあたっては、扶養親族等申告書が提出されていれば、年金支給時に、社会保険料や扶養控除等各種控除額を控除した額に税率を適用して計算されており、さらに2階建部分についての源泉徴収も調整した方法により定められているため、確定申告が不要とされていると考えられます。
ここで、公的年金等収入額が400万円の場合の所得税計算を試算してみましょう。公的年金等に係る雑所得の金額は、公的年金等の収入金額から公的年金等控除額を控除した残額とされています。
これに当てはめると、公的年金等収入金額が400万円の場合の公的年金に係る雑所得の金額は2,625,000円となります。
従いまして、仮に
年金等雑所得 2,625,000円 - 社会保険料 15万円 -配偶者控除 38万円 - 基礎控除 38万円 = 1,715,000円
となり、やはり税率は、5%となるので少額不追求ということで確定申告不要とされていると考えられます。
ただし、年金の種類が多様であるため、2以上の公的年金等がそれぞれ異なる法律に基づくもので、かつ、その2以上の公的年金等が相互に関連又は補完関係を有しないことなどを理由として、支払いに関する事務や支払いが別々に行われているような場合には、源泉徴収額を別々に計算しても差し支えない旨も規定されています。
また、海外からの年金収入がある場合には、国内法による源泉徴収の対象となっていないため、確定申告が必要となります。
【10】退職所得がある方
外国企業から受け取った退職金など、源泉徴収されないものがある方は、確定申告書の提出が必要となります。
ただし、退職金などの支払者に「退職所得の受給に関する申告書」を提出した場合、一般的に退職所得に係る所得税等は源泉徴収により課税が済むことになりますので、退職所得の申告は不要となります。
【11】その他
上記各規定を考慮して各種の所得金額の合計額(譲渡所得や山林所得を含む。)から、所得控除を差し引き、その金額(課税される所得金額)に所得税の税率を乗じて計算した税額から配当控除額と住宅借入金等特別控除額を差し引いた結果、残額のある方は、確定申告書の提出が必要です。
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