年末になると特によく聞く103万円の壁や130万円の壁といった言葉ですが、103万円の壁とは、所得税法上配偶者控除や扶養控除ができる給与収入の基準であり、130万円の壁とは、社会保険において被扶養者となれるかの給与収入の基準です。
これらはいずれも給与収入を基準とした金額ですので、個人事業主においては判断基準がやや異なります。
ちなみに103万円とは、給与所得控除額の55万円と基礎控除額48万円の合計額です。
EC取引やアフィリエイト等コロナ下においてご家庭で事業を始められた奥様等も多いため今回テーマとして取り上げさせていただきました。
奥様が個人事業主の場合は注意が必要
まずは、所得税法上の扶養と社会保険上の扶養が全く違うものであるとともに、個人事業主が被扶養者から外れると、国民健康保険や国民年金の対象になりますので、所得税法上の扶養よりもより影響が大きいということを理解しなければなりません。
ここにおいては、わかりやすくするために、まずは、最も典型的な例でご説明いたしますので、全ての方に当てはまるわけではないことはご了承ください。
まず、個人事業主の方の判定も同じく収入が130万円未満という金額であることは変わらないのですが、収入というのが給与の考え方とは異なります。
ここでまた再確認しておきたいのが、収入と所得の違いです。つまり、収入や所得といってもその言葉が出てくる場面によって意義が異なるとともに間違えて使っている方、混同している方も多いのでさらに注意が必要ということです。
さて、個人事業主となった奥様が社会保険の被扶養者で居続けられるかの判断基準である130万円未満の収入とは、いったいどの金額なのでしょうか。
協会けんぽによると、
「自営業者の方の年収は、年間総収入から直接的経費※を差し引いた額となります。」
※直接的経費とは、その経費がなければ事業が成り立たない経費(例:製造業における原材料費、小売業における仕入れ費)であり、それ以外の費用(例:公租公課、宣伝費)は差し引くことはできません、とされています。
これにより、協会けんぽは、売上高マイナス売上原価(製造原価)つまりより一般的にいうところの粗利が130万円未満であることを求めているということが分かります。
ただし、原価計算基準においては、製造原価に交際費が入る余地もありますが、これは認められず、不動産所得との一貫性からかはわかりませんが、原価であったとしても減価償却費や固定資産税等の公租公課も認められないことから原価をマイナスできるといった表現だけでは正確とはいえません。
ただし、原価は基本的に収入には当たらないというのが基本的な考え方のようですので、自宅で使った水道光熱費なども製造原価等の原価に該当するのであれば認められる余地はあるでしょう。
開業した年の扱いは?
個人事業主の場合の収入130万円未満であるかどうかはこのように判定しますが、では、今まで被扶養者であった方が、その年から個人事業主として開業したらどのような扱いになるのでしょうか。
厳密には、1月から積み上げていった収入が130万円以上となった月に扶養から外れるということになります。
ですから、後になって扶養から外れていたことが判明した場合、さかのぼって扶養から外れることとなるので、扶養から外れたときからその期間の医療費の保険適用分(自己負担分以外の金額)について一旦支払いをし、国民健康保険にさかのぼって入り直し、医療費の支払いを受けるという恐ろしい手続きをしなければなりません。
ちなみに協会けんぽでは、健康保険の被扶養者となっている方が、現在もそのような状況にあるか、毎年被扶養者資格の再確認を行っています。
これは事業主が被扶養者の方が扶養者要件を満たしているかを再確認する手続きです。
その事業主の確認方法は、健康保険被扶養者資格再確認調査票の裏に記載があるのですが、被扶養者の方の年収が130万円未満で、「年収とは、給与収入、事業収入、地代・家賃収入などの財産収入、老齢・障害・遺族年金などの公的年金、雇用保険の失業給付、健康保険の傷病手当金や出産手当金のことをいいます。」とあります。
ここで所得税法上非課税である、遺族年金や失業給付、傷病手当金も年収に入るということもやや驚きですが、事業収入については事業収入としか記載がないので、文言だけだと、売上が130万円未満でなければ被扶養者から外れてしまうのだなと解釈されるでしょう。
従って、個人事業主の方で売上が130万円以上であれば、この調査票に記入され、その後確定申告書が確認され、正式に被扶養者から外されるといった手続きに進むものと思われます。
では、新規に被扶養者となる際の収入はどのように考えたらよいのかといいますと、直近3か月の月平均の12倍が年収と判断されます。
ですから金額的に微妙で、原価について理解してほしい、ぜひとも扶養に入りたいといった場合には、会社の社会保険担当者と年金事務所に同行して説明して認定手続きを行うといったこともあり得ます。
またそういった方はその後の確定申告書もこれらを考慮しながら作成するあるいは事業を続ける必要があるともいえるかもしれません。
今回は個人事業主の収入についてスポットを当ててご説明いたしましたので、年齢や家族の収入等他の要件等は考慮外、また、健康保険は組合や共済等加入団体によっても取り扱いが異なりますのであくまで参考としてお読みいただけると幸いです。
個人事業主の確定申告についてはこちらをご覧ください。