生前贈与加算が3年から7年に。その影響は?
令和5年度税制改正大綱において目玉といえるのが、相続税の計算上加算する生前贈与の期間延長と相続時精算課税の見直しでしょう。
まず、相続税の計算上加算する生前贈与の期間延長ですが、延長した期間の合計100万円までは加算の対象外にはなりますが、要するに、お亡くなりになる直前の贈与は、以前から相続財産に戻して相続税の計算対象とすることとされているその直前の期間を3年から7年に延長するというものです。
この改正により税務調査においては、お亡くなりになる前の贈与について相続税の計算上加算の対象となるのは金額にかかわらず全ての贈与ですので、親族の7年分の預金の動きを全てチェックして贈与の疑いのある資金の動きを拾っていくことが基本中の基本として行われることになるでしょう。
相続税対策は変わる?
納税者としては、被相続人の死亡という予測できない時点以前7年間の贈与が相続税の対象となることから、今まで以上により早い段階での相続税対策が必要になるといえます。
ここで特に注意が必要なのは、最もオーソドックスな相続税対策である贈与税の非課税枠110万円を使った生前贈与が7年分も無意味になってしまうということです。
相続税の計算上生前贈与を加算すること自体は以前と変わりませんが、3年間で、例えば110万円の贈与を3人にしていたとすると110万円×3人×3年=990万円、これが7年間分となると110万円×3人×7年-100万円=2,210万円ですので節税と思ってやっていたことが相続財産として課税されるということになりますので、現在暦年贈与をされていらっしゃる方も多いと思いますが再検討をされた方がよいかもしれません。
贈与税の対象とならない贈与
ここでやはり110万円暦年贈与をされる前に再認識しておいていただきたいのが、贈与税の対象とならない贈与です。
というのは、民法877条1項において、直系血族及び兄弟姉妹は、お互いに扶養する義務がある旨定められており、相続税法では扶養義務者相互間における生活費または教育費に充てるための贈与は、原則、非課税であると定められており、これは必要の都度、直接これらの用に充てるためにもらった通常必要と認められる金額には贈与税はかからないということです。
つまり、親が子のために学費を支出しても贈与税がかからないのと同様に、祖父母が孫のために金額が多額になりがちな学費を支出しても非課税であるということです。
この贈与は相続税の計算における持ち戻し必要もありませんので、暦年贈与を検討する前にまずは、親族等の学費等を負担してあげることを検討した方が良いということです。
次に贈与で有効なのは、孫等相続人以外への贈与です。
孫等相続人以外の方が遺産分割や生命保険の受取人等相続税計算の対象になっていなければ贈与の持ち戻しはありませんので、直前対策としても有効です。但し、推定相続人に対してと同じように贈与税の非課税枠110万円を超えると贈与税は発生します。
相続時精算課税制度の活用
また、令和5年税制改正大綱の改正で留意すべきなのは、相続時精算課税制度の見直しです。
この見直しにより贈与により相続税対策を検討しているのであれば、ほとんどの方が相続時精算課税制度を活用すべきであると考えます。
といいますのは、従来相続時精算課税の最大のネックは、相続時精算課税適用後は、その贈与者からの贈与は相続時精算課税贈与しか適用できなかったのですが、改正により相続時精算課税制度適用後の贈与のうち相続時精算課税の適用を受けるのは110万円を超えた分だけであり、110万円までであれば申告不要、またその110万円は暦年贈与とは異なり相続税計算における持ち戻しの対象にもならない、さらに暦年贈与の非課税枠110万円とは別枠という点です。
つまり、相続時精算課税を適用した方は、相続時精算課税適用後、同じ贈与者から110万円の贈与を受けたとしても申告・納税は不要で相続税計算時の持ち戻しもなく、他の贈与者から暦年贈与を受けたとしても110万円まで贈与税がかからないことは従来と同様で、相続時精算課税と暦年贈与を併用することにより、合計で220万円まで非課税となるということになります。
極端にいうと、贈与者が2人いて特に一度に高額な贈与をする場合ではなくても、一人分として相続時精算課税選択届出書を提出し、その後110万円の贈与を続ければ、暦年課税の非課税枠と別枠で110万円の非課税枠を得られ、さらに暦年贈与と違って相続税計算上の持ち戻し計算の対象にもしなくてよいということになるのです。
そこまでしなくても従来通り、相続時精算課税制度を適用することが有利になりそうな方は、110万円枠がなくなることを気にしなくてもよくなるので迷うことは少なくなるでしょう。
改めて相続時精算課税についてご説明しますと、相続時精算課税制度は、その贈与時の価格で相続時に持ち戻す制度ですので、例えば将来価格の上がる可能性の高いもの(インフレによる影響を含む)や、収益が生じるものがあれば従来より積極的に行うべきでしょう。
将来価格の上がる可能性の高いものとは、オーナー企業で業績が好調である会社、将来上場する可能性がある会社、評価方法が類似業種比準価額方式から純資産価額方式に変わる可能性がある会社の株式(これは会社規模等の変化による相続税評価額の計算方法の変更リスクです。)、インフレで価格があがるものなどで、収益の生じるものとは、高配当株、不動産などの家賃収入があるもので、これは、以後の収益が贈与者から受贈者に移転することにより、贈与者の相続財産の増加を抑制することにより相続税の増加リスクも抑制し、さらに一般的には受贈者の所得税率は、贈与者よりも低い(上場株の配当は同じですが)などの点から適用すべきということになります。
ただ、孫への相続時精算課税制度の適用は相続時の2割加算の対象となりますので慎重な検討が必要です。
また相続時に相続財産が基礎控除額以下である方にも相続時精算課税は有効といえるでしょう。
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