投資用不動産を取得するにあたり、既存の法人で取得するのか、新設法人で取得するのか、個人で取得するのかは悩ましい問題です。
投資用不動産であれば、インカムを得ながら、マーケットの状況によりキャピタルゲインを狙うのでしょうがいずれにしろエグジットの税金を見据えて取得することが必要です。
もちろん取得する個人や法人、不動産の用途や借入の有無等によって判断は異なりますが、それぞれの場合における税制は最低限押さえておくべきでしょう。
《個人で購入する場合》
まず、個人で購入する場合ですが、5年以内の短期譲渡は極端に税率が高いため短期勝負と考えている方は法人で取得すべきでしょう。
中古物件で減価償却を多めに取れる場合には、給与所得等との損益通算は可能ですが、土地の負債利子及び海外物件の減価償却費は損益通算ができないという点には注意が必要です。
また、個人で取得した場合には、相続税評価額が下がるという側面もあります。
つまり、現金で持っているより、時価で同じ金額の不動産であれば、相続税評価額の方が低いため相続税負担が減るということです。
また、借入金で購入した場合には、不動産は相続税評価額が正の財産、借入金は借入金残高がそのまま債務控除の対象となりますのでさらに相続財産が減少します。
相続税計算における貸付事業用宅地の評価減、貸家建付地としての評価減なども考慮に値します。
相続の時期が近いと考えるのであれば、マーケットが上がっていても売却を見合わせるといった選択肢もあり得ます。不動産を現金化すると、相続税の評価上の財産が増えてしまいます。また、相続により取得した不動産は、短期・長期の判定においても、被相続人の取得時点からになりますし、相続税の取得費加算の特例もありますので慎重に検討すべきでしょう。
《法人で購入する場合》
例えば、不動産を購入するために新規に会社を設立し、全額借入金で不動産を購入した場合であれば、相続財産は株式となりますが、株式の評価においてマイナスというものはないので、相続財産を減らすという効果はありません。
さらに、オーナー個人が会社に貸付けをして不動産を取得した場合には、貸付金の額がそのまま相続財産になりますので、早期に相続が発生すると貸付金がまるまる相続財産になってしまいますので注意が必要です。
では、事業を営んでいる会社が、借金をして不動産を購入した場合、株価を下げる効果があるのかというと、ケースバイケースと言わざるを得えません。
なぜかといいますと、非上場会社における株価評価方法は、会社規模により類似業種比準価額方式、純資産価額方式、それらの折衷方式があり、類似業種比準方式だとほとんど影響を受けないからです。
また、純資産価額方式の場合であっても、課税時期3年以内に取得した家屋等は、課税時期における通常の取引価額によるとの規定にも注意が必要です。
《不動産M&Aの場合》
では次に、新規に個人株主が法人を設立し、法人ごと売却する場合を検討してみます(不動産M&A)。
この場合、株式の譲渡所得ですから、譲渡所得に対して15.315%の所得税と、5%の住民税となり、さらに、取得税及び登録免許税も生じないので、税制的にはかなり有利といえるでしょう。
ただし、株式を購入した側にとっては、株式を譲り受けた際に不動産の含み益が実現せず、その後不動産として売却した場合には、購入時までの含み益にも課税されることとなるため、直接購入してもらう場合よりも取得した時点の含み益に対する税額分のディスカウントを要求されることが一般的になりつつあります。(特に、上場企業においては、その分の繰延税金負債を計上しなければならないため強い要請があるものと考えられます。)
《不動産譲渡の場合》
これを、株式譲渡ではなく不動産譲渡で行った場合にはどうなるかですが、譲渡益は法人の所得として、法人税、住民税、事業税の課税対象となりますが、一般的には退職金等で相殺することになるでしょう。ただし、役員報酬(最終報酬月額)が少なかったり、在任期間が短かったりすると、多額の退職金を計上することが難しく、さらに勤続年数が5年以下である場合には、税制の優遇も少ないため、退職金計上のメリットは減殺されてしまいます。
多額の退職金の計上が無理となると、会社に残った利益剰余金を個人で受け取るには、清算して配当とするか、役員報酬をもらい続けるかですが、いずれにしろ税金面の問題があり、特に配当については高い税率を覚悟する必要があります。
《まとめ》
このように投資用不動産の取得形態の選択は難しいですが、その方のニーズや状況によりいずれにしろ着地を見据えての慎重な購入が望ましいといえるでしょう。
非居住者の方や消費税の取扱いについては次回以降に譲らせていただきたいと思います。
投資用不動産の購入をご検討中の方はお気軽にBPS国際税理士法人にご相談ください。お問い合わせはこちらから。