経営通信

ダブルワークと社会保険の話

副業・兼業という働き方が広がり、複数の職場で働く、いわゆる「ダブルワーク」も珍しくなくなりました。この「ダブルワーク」、社会保険の手続き上「二以上事業所勤務」と呼んでいます。

近年増えてきたこの「二以上事業所勤務」に関する社会保険の取り扱いについては、企業側・従業員側ともにまだ認識が追いついていないケースも多くあります。

正しい理解と対応ができていないと、思わぬトラブルや保険料の遡及徴収などのリスクにつながることも。今回は、今こそ知っておきたい「二以上事業所勤務」と社会保険のルールについて解説します。

1.「二以上事業所勤務」とは?

「二以上事業所勤務」とは、1人の労働者が、同時に複数(2か所以上)の事業所で継続的に働いている状態を指します。たとえば、昼間は事務職のパート、夜は飲食店でアルバイト…といった働き方です。

それぞれの勤務先だけを見ると、社会保険の加入要件を満たしていない場合でも、報酬や労働時間を合算することで加入対象となるケースがあります。

以下すべてに該当すれば、健康保険・厚生年金への加入が必要になります(2025年現在)。

  • 週の労働時間が20時間以上(合算)
  • 月額報酬が8.8万円以上(合算)
  • 雇用期間が2か月超の見込み
  • 勤務先が社会保険の適用事業所である
  • 学生ではないこと(例外あり)

【事例】Wワーク中のパート勤務者

A社(事務)… 週3日×1日5時間 → 週15時、月6.5万円
B社(飲食)… 週2日×1日5時間 → 週10時間、月3.5万円

合計:週25時間、月10万円

→ それぞれ単独では加入基準を満たしませんが、合算すると要件を満たすため、社会保険加入が必要となります。

2.加入手続きの流れ

では、実際に社会保険の加入対象になった場合、どのような手続きが必要なのでしょうか?

特に2社にまたがる場合は、企業間での手続きの分担や連携が気になるところです。

手続きのステップ

①主たる事業所を被保険者が選択する

→ 労働時間や報酬が多い方が一般的。

例外として、健康保険組合がある場合はその事業所が優先されますが、書面で明確に決められているわけではなく、あくまでも被保険者本人が選択します。

②主たる事業所が、「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を提出

提出者は被保険者本人とされていますが、実務では主たる事業所の労務担当者が行うことが多いです。書式は年金機構HPからダウンロード可能です。

記載する主な内容:

  • 主・従たる事業所の情報(所在地・適用番号など)
  • 勤務開始日や報酬月額
  • 被保険者の署名(必要に応じて)

労務担当者が行う場合、従たる事業所の勤務開始日や報酬月額は雇用契約書や給与明細を提出してもらい確認すると良いでしょう。

③年金事務所が報酬を合算し、標準報酬月額を決定

その等級に基づいて社会保険料が算出されます。決定後、各事業所に通知書が送付されます。

④保険料は按分され、それぞれの会社から納付

報酬額に応じて、各社に保険料の支払い通知が届きます。会社間でお金のやり取りをする必要はありません。

3.【注意点】加入する健康保険が異なる場合

二以上事業所勤務の際に特に注意が必要なのが、「勤務先ごとに加入している健康保険が異なる場合」です。

たとえば、

A社:健康保険組合(IT健保など)
B社:協会けんぽ(全国健康保険協会)

というように、それぞれ別の保険者に加入しているケースでは、以下のようなポイントに注意が必要です。

■ 健康保険は「1か所」にしか加入できない

社会保険の制度上、1人の被保険者が同時に2つの健康保険に加入することはできません。そのため、複数の勤務先で条件を満たしていても、「主たる事業所」を1つ選び、その勤務先が加入している健康保険に一本化する必要があります。

■ 主たる事業所の選定がポイント

先ほどもお伝えした通り、原則として、労働時間や報酬が多い方を主たる事業所とするのが基本です。

ただし、片方が健康保険組合で、もう一方が協会けんぽの場合、組合側を優先すべきとされるケースもあります。

一部の健康保険組合では、被保険者資格の取得にあたり「主たる事業所であること」を条件とすることがあるためです。

■ 健保組合によっては対応していないことも

実は、すべての健康保険組合が「二以上事業所勤務」制度に対応しているわけではありません。

中には「複数事業所の報酬合算には対応していない」として、加入そのものを受け付けないケースも存在します。

この場合、仮に労働条件の面で組合健保の方が主たる事業所であっても、協会けんぽで手続きを進める必要が出てきます。

■ 判断に迷ったら、社会保険労務士に相談を

「どちらの健保に加入すべきか分からない」
「健保組合が対応してくれない」
「手続きが滞っている」

という場合は、労務の専門家である社会保険労務士に相談することをお勧めします。加入すべき保険者や手続き方法について、最新の運用を踏まえて的確なアドバイスを受けることができます。

特に健保組合が関わる場合は、被保険者本人・両勤務先・健保組合・年金事務所の四者間で調整が必要になることもあります。

早めの情報共有と連携が、スムーズな加入につながります。

4.よくある見落とし・トラブル例

  • 従業員が副業していることを会社に申告していなかった
  • 両社とも「うちはパートだから関係ない」と思い込んでいた
  • 年金事務所からの指導で初めて気づいた

こういったケースでは、手続きを遡って行う必要があり、保険料を過去分さかのぼって納付しなければならないこともありますのでご注意ください。

5.なぜ今、知っておくべき?

副業解禁の流れや人材不足の影響を受けて、複数の職場で働く人は今後ますます増加することが予想されます。

それに伴い、企業側にはより複雑な就労実態に対応した労務管理体制が求められるようになっています。

「うちはパートばかりだから関係ない」
「知らなかったから仕方ない」

では済まされないのが社会保険の世界です。

従業員と会社、両方が安心できる労務環境を整えるためにも、ぜひ「二以上事業所勤務」についての理解と対応を進めておきましょう。

制度の詳細や書類記入で不安な場合は…

これらの制度の詳細を知りたい方、取得に関してご興味のある方はぜひBPS国際社会保険労務士法人にご相談ください。

二以上事業所勤務の取り扱いや書類作成のサポートをご希望の方は、ぜひお気軽にこちらからご相談ください。

BPS国際社会保険労務士法人では、実務経験に基づいたサポートをご提供しています。

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